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【134号】人材開発のためのシステム開発

■人材開発は難問
人材開発・育成はどの分野、どの企業にもある永遠の課題ではありますが、情
報化投資でアメリカに、情報志向の人数でインドに大幅に立遅れるなど、日本
の情報産業を支えるべき人たちの質・量の衰退が心配されています。

ここ10年、ユーザ企業は「情報システムはコストセンター、スリム化が得策」
とパッケージ導入や丸投げアウトソーシングを指向し、SIerは未熟な要件
定義技術のまま、目先の低コストを求めて、オフショア開発に走り、これまで
開発に付随して習得されてきた技術すら失っていったように思われます。
人材育成問題は、日経コンピュータでもしばしば取り上げられていますが、
IT企画人材育成の特集においても、「本質を把握する力」、「先見性」、
「現場を深く聴く力」など決め手の難しい能力が求められています。
さる9月21日弊社内で行われた「人材育成の研究会」でも、「ITの高度複
雑化とスコープの拡大によって、人材育成が非常に難しくなっている」とのご
意見が支配的で、決定打が出せないまま終了した印象でした。
昔のIT部門は、個別の手作業を機械化して、高速化・高品質・コストダウン
を実現すればよかったわけですが、DBを介してこれらを連携し、今はさらに
DB横断に、またWeb経由B2Bの連携が要求される時代となっています。
IT化の方法も日進月歩し、スコープはERPからSCM、CRMなど企業戦
略を支えるPostERPへと進化を続けます。要するに、技術や対象の広が
りによって、難度が上がっているわけです。
■分業のための2種類のインターフェース
このようにビジネスとIT、また個別アプリケーションと企業戦略をカバーす
る情報システムを一人で取り仕切る人材を養成することは不可能に近くなって
いるように思われます。そうなると手分けして分担する以外にはないというこ
とになりますが、その場合「分業のインターフェース−正確かつ効率的な情報
共有の形式―がいかにあるべきか」が問題になります。それは単なる「見える
化」ではなく、「個人差の発生しない、人間のパターン認識能力をフルに活用
できる形式」であってほしいわけで、結局、「文章表現を最小に抑えた、洗練
されたルールを持つ図および表による表現」になると考えます。
(注1)この発想は、実は私はプラントエンジニアリングから学びました。プ
ラントエンジニアリングでは、ある原料からある製品を製造するプラントを設
計するわけですが、初めは化工設計として化工エンジニアが、ハードウエア・
イメージを持たない機能のみからプロセス・フローシート、およびこれを実現
するハードウエアを識別するための配管計装線図を設計します。次の機器設計
や配管設計エンジニアらは、これをベースにハードウエア設計を行い寸法、肉
厚などを設計します。すなわち配管計装線図が上流設計と下流設計のインター
フェースとなっているのですが、この記述がほとんど個人差の出ないルールに
よって記述されており、顧客もこれをレビューすることによって間違いなく所
期のプラントを入手することができるようになっています。情報システムにも、
これに相当するドキュメントが必要と、1970年代にTHデータモデル図や
IPF(Information Process Flow)チャートを考案したわけですが、このお
手本が配管計装線図であったといえます。このインターフェースとして、ビジ
ネス局面とIT局面との間の、また個別アプリケーションとアプリケーション
横断との間の2種類が問題になるわけですが、私は現在、前者として
・概念DB構造図
・データ定義書
・IPFチャート
・画面・帳票イラスト
の4種のドキュメントを、また後者として
・EDW(Enterprise Data Warehouse)の概念DB構造図
・ハイレベルIPFチャート
をあげています。これらによって、分業する担当者がほとんど疑義なく、必要
な情報共有ができるはずと考えているわけです。
(注2)分業として現在、データベース設計と業務処理設計に分ける縦割り方
式をとる場合が多々ありますが、大掛かりな調整が多発しこれは非常にまずい
と私は考えます。実装独立の段階で、データとプロセスを同時に扱うことに
よって、高品質を生産性高く得られると考えるからです。
したがって、プロセスを考える人にとって、データモデリングは必須と考えま
す。もちろんこのような情報共有ドキュメントだけで人材育成ができるわけで
はありませんが、現状や問題点を共有することによって、効率的な議論ができ、
新人はベテランの知恵を吸収しやすくなり、また類似システムでの成功例を活
用しやすくなると考えます。建築やプラントなどのハードウエアシステムと
違って、情報システムはそのままでは見えないという特徴を持っており、これ
を「個人差なく見える化する」のが前提条件と考えるわけです。
■ユーザ企業主導で行う
これらのドキュメントを効率的に作るための素材や手順は、方法論が定めるわ
けですが、プロジェクトの環境や担当メンバーによって、都度変化する部分が
あります。しかし、これらの要求仕様記述のドキュメント作成は、例外なく
ユーザ企業主導で行うのが原則のはずです。集中的にマンパワーが要求される
ため、コンサルタントやSIerの支援を仰ぐとしても、主体はユーザ企業で
あり、そのための人材育成は不可欠と考えます。「システム開発とはプログラ
ムを作ること、プログラムを売っているならば買って来れば良い」といった短
絡的な発想から、システム人材開発の機会を失って危機的状況に陥っている会
社が少なくありません。システム開発においては、プログラム以前に、システ
ムアーキテクチャを考え、共有すべきデータ仕様を考えます。いや、それに先
立って企業のビジョンやビジネスアーキテクチャを考えなくてはなりません。
1980年代までは、少なからずこのようなチャンスがあり、不満は残るもの
の、ある程度の人材育成が行われてきましたが、2000年以降人材開発の環
境は非常に厳しくなっているように思われます。
■人材開発のチャンスを有効に活かす
これに対処するためには、「システム開発とは人材開発でもある」との理解の
もと、これを最大限に活用する必要があると思われます。また「開発はまだ先」
だとしても、いや開発になると時間の制約で本格的な取り組みは難しいので、
むしろ保守合理化、パッケージ導入準備、全社情報可視化、データ標準化など
を目的として、現状可視化プロジェクトを企画しこれを活用することが考えら
れます。座学の勉強会が企画されますが、技法は座学だけでは忘れてしまい勝ち
タイムリーにOJTを行って身に付けることが有効です。これまでの安易なパッ
ケージ導入は、「親がかりの宿題作成」のように、その場しのぎになり勝ちです。
「パッケージを全社ビジネスアーキテクチャにどう位置づけるか、他システムと
のインターフェースはどうあるべきか」は非常によい人材開発の場となります。
ビジネスシステムのガバナンスが要求されていますが、結局これはデータの品質
に帰着します。システムの品質は、「人→データ→システム→業務」の順となる
ようです。即効性に欠ける難題ですが、結局は「人」のレベルアップが決め手と
なり、これが企業の資産になります。経営を支えるIT、これを支える人材の開
発をもっと重視したいと考えます。