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【第69号】システムと企業文化

DRI通信69号「システムと企業文化」      2002.6.1
景気底這いの中、速く良い大規模システムを作れという難題に挑戦されておられる方が多いかと思われます。
金で買えないデータと人材のインフラの差が成功か否かを分けるようです。インフラを作りながら、
開発にも対応する、その知恵が要求されています。
われわれもこの難題に日夜挑戦しております。お気軽にご相談ください。
今月は、やや趣向を変えて、いろいろな人や情報を通じて感じている、「システムと企業文化」と言った
問題について記してみます。
やや独断や偏見が過ぎるかもしれませんが、他意はありませんので、ご容赦ください。
■ 各社各様
仕事柄いろいろな企業の、情報システムをあずかる人々とお付き合いさせていただいております。
通り一遍の説明でなく、業務の流れ、画面・帳票サンプル、物理ファイルフォーマットまで、見せていただくため、
情報システムの実態を、奥深く拝見することになります。


先進的にITに取り組まれてはいるが、全社的にはばらばらの会社、大きくはないが戦略的にバランスの取れた会社、
メーカーやベンダーからの情報しかなく、もはや常識となっている技術をご存じない鎖国主義的な会社、対症療法主体で
「田舎の温泉旅館の別館増設方式」をとり、迷路の多いレガシーシステムの保守にご苦労されている会社、優秀な人材を
抱えながらもお互いに遠慮しあって伸び悩んでおられる会社など、本当にいろいろです。
その商品すなわち業種によって、そのカラーは大きく左右されます。しかし同じ業種でもERPに取り組まれて、一方は成功し、
一方はなかなか思うようには行かない、と言ったことが起きます。企業内だけでなく企業横断的なデータの流通が要請される今日、
パッケージか手作りかにかかわらず、シーズ中心からニーズ中心、したがってデータ中心/インターフェース先行アプローチが、
必須要件と認識されてきました。そこでこのDOA(Data Oriented Approach)を推進する立場のものとして、
情報システム部門の文化について考察してみたいと思います。
■ 製造業とサービス業
組み立て型の場合がより顕著ですが、製造業では素材/部品/製品の標準化は当然のこととされています。
また物作りに携わる事/人が評価されます。このため情報システムの基礎部品であるデータ項目の標準化の重要性が、
感覚的に理解され、またこれを用いてシステムを自ら作ることに抵抗がありません。DOAに取り組まれる企業数も、
また成功率が一番高いのも製造業です。ただ、要は作りさえすれば良いと、そのシステムの戦略的位置づけなどについての
配慮不十分のまま、すぐ目先の課題に取り組みはじめ後で統合問題に悩むと言ったケースがまま見られます。
一方、例外はもちろんありますが、サービス業−官庁・電力・金融などを含みます−ではこの反対に、データ項目の標準化など、
説明されれば頭では分かるとしても、実感することは難しく、またシステム造りも、自ら担当するというより、
他人に任せるべきものと考えられる方が多く、さらに人事ローテーションも激しく、技術移転が成功しにくい企業が多いように見えます。「自分でやるよりも他人に上手にやらせる人が出世する」そんな文化だからでしょうか。
■ コンピュータメーカや大手SI業
大勢の優秀な人材を抱えているわけですが、古くから、「自社のハード・ソフトを活用してもらうためのアプリケーション開発」
というスタンスで取り組んできたためでしょうか、どうしてもシーズ中心、実装指向の、経験と力で押し切るアプローチが主体と
なるようです。「実装独立の業務モデルをベースにユーザ要件を表現し、関係するユーザ間の調整を完了してから、実装に入る」
というニーズ指向アプローチにはなかなか取り組めないかに見えます。
大勢のSE達は、ラフなポンチ絵と日本語のシステム説明に、物理ファイルとプログラムから成るソフトのたたき台を加えて、
システム構築の腕を磨いてきました。これはそのスタートが物理差分メンテナンス業務だったからかもしれません。このため
「実装独立のレベルでは、いつまでも外堀のまわりを回るだけで本丸に接近できない、実装従属の俗人的方法になってはじめて
詳細が詰められる」といった方法論しか持ち合わせていないかに見えます。
彼らを活かして、期限内に価値を生みださなければならないとなれば、そう簡単にアプローチを変えるわけにはいかない。
大規模ゆえ、ある程度モデル手法を取り入れるとしても、従来法でやれそうな範囲に入った、と思われたとたんに従来法に
シフトしてしまうのも無理からぬことかと思われます。
ある意味でITの先進企業ですが、こと業務アプリケーション開発に関しては、最も遅れた集団に見えます。
「動いてなんぼ」ということから、カットオーバーには漕ぎつけても、システムは暗黙知に近く、保守生産性は低い。
しかし基幹システムならば保守は必須、ユーザ企業は高いコストも飲まざるを得ません。SIにとっては毎年見込める安定収入、
方法論変革へのインセンティブが相殺されてしまいます。
■ 大手ユーザ企業
システム化の歴史も古い大手企業は、大規模レガシーシステムを抱え、再構築となれば、100億円を超えるプロジェクトも
少なくありません。リスクヘッジのためにも、大手メーカーや大手SIへの発注となり、上述の旧式方法論による開発とならざるを得ません。
また企業城下町を形成している地方の大企業の場合は、本業と同様、「裸の王様」のように、情報システムについても、
自らそこそこ最先端を行っているかに錯覚している場合があります。実際「商品が強いがために、情報システムが遅れている」
ことも少なくありません。
また人材が豊富なため、かえって船頭が多く、社内調整に時間をとられ、意思決定が遅くなるケースが少なくありません。
かえって人材は少ないが、一人優秀なリーダーのいる中企業の方が、スマートに良いシステムを作っているように思われます。
次々と新しい局面が登場するITの世界では、なかなかROIでの説得材料を用意することができません。トップが、船頭を整理して、
感覚の良い若手に任せて成功した、というケースがあります。
■ 鍵は関係者のコミュニケーション
優秀な船頭達が力を発揮できない最大の原因は、コミュニケーション手段の不備により、現状と問題点の共有ができないからではないかと思われます。
ラフなポンチ絵と日本語のシステム説明では、たくさんの暗黙知が残され、議論がかみ合わず、人により現状と問題点の理解にかなりのギャップが発生します。
1時間で終わる会議が1日かかっても終わりません。
それでもシステム規模が小さいうちは、ラフなポンチ絵と日本語のシステム説明、さらにソフトウエア仕様を適宜参照することによって、
スーパーSE達はシステムを十分把握できました。しかし今やシステム規模が、連携・接続を重ねて1桁大きくなってきております。
従来法では、その全貌が一人の人の頭に入りきれなくなってきてしまった、と考えなければなりません。みずほの事故もこれが根本原因ではないかと、
私は考えます。
ソフトウエアは、その本質的な業務仕様が属人的な実装仕様と混在し、これに隠されて「本来他人の目には見えないもの」のように思われます。
またITの知識も必要となるため業務ユーザにとってはハードルが高い。だからソフトウエアドキュメントはどんなに丁寧に書いてもなかなか利用されず、
その役を果たせない。IT絡みだと陳腐化も速い。しかしこのベースとなった業務モデル(われわれはこれをTHデータモデルおよびIPFチャートを中心に表現しています)なら、
ユーザにも分かるし、個人差のでない図と表による表現によって、見えるものにすることができ、業務が変わらない限り健在である。
ただ、従来は「動いて何ぼだ」といって業務モデルはソフトを作るための通過点、保守しないワークドキュメントとしてしか見られなかった。
しかもソフトの劣化が、こんなに速く、また見えにくいことも分かっていなかった。このため業務モデルについての正しい書き方についての研究や教育がなされず、
活用されなかった、ということではないでしょうか。
■ 資産は標準データと人材
「開発されてきた膨大なソフトウエアは資産でなく負債である」という声を耳にします。では何が資産でしょうか。ERPの成功事例など種々伺って感じるのは、
高品質の標準データとこれを作ってきた人材、あるいはこれを作ってきた企業文化が資産であり、鍵である、ということです。
ERPを買っても、商品・部品、顧客、組織などのデータがついてくるわけではありません。それまでのデータベースのどこかから、
持ってきてローディングしなければなりませんが、1業務アプリケーションの「偏見」の混入したものでは、使用できません。
全アプリケーションで使えるように調整し、また品質も上げなければなりません。この手間が会社によって、1ヶ月だったり、1年だったりします。
これが自力でできる会社はまれです。大企業なら訓練されたDOA人間が数人必要でしょう。
「受注情報に基づいて、材料手配をする」といった業務がありますが、業務とは情報ないしデータの変換プロセスと考えられます。DOAとはこの変換プロセスでなく、
その入力と出力、すなわちインターフェースに着目するアプローチです。変換プロセスの詳細は当初見ませんから、効率的に全貌を見渡すことになります。
このため、もちろん個人差はありますが、DOA人間は一般に、業務についても全体把握に優れているといえるでしょう。
これをどうして育てるか。私は独断ですが、「25歳から35歳の間に、正しい方法論で設計・開発に携わるのが人を育てる秘訣だ」と言っています。
いまやITもビジネスも激変の時代です。これに対処するには、「良い人」を用意するほかはありません。「良い人」の育つ文化、
そのためのマネジメントをお願いしたいと思う次第です