「全社統一マスタの構築と普及は、一過性のプロジェクトマネジメントではなくプログラムマネジメントとして取り組むべきです」
マスタデータマネジメントに関して、このように説明したときに、「プログラムマネジメントとは何ですか」というご質問をいただくことが何度かありました。
そこで今回のテーマはプログラムマネジメントにします。
情報システム部門やITベンダーのみなさんは、プログラムという言葉を聞くと最初にコンピュータプログラムのことを思い浮かべるようですね。そのため「マスタデータマネジメントがなぜコンピュータプログラムのマネジメントと関係あるのかな?」といった疑問がわくのでしょう。
ウィキペディアでは、プログラムマネジメントを次のように説明しています。
「プログラムマネジメントとは、同時並行的に進められている相互に関連するプロジェクト群を管理するプロセスである。」
一方で、プロジェクトマネジメントは次のような説明です。
「プロジェクトマネジメントとはプロジェクトを成功裏に完了させることを目指して行われる活動のことである。これにはプロジェクトを構成する各活動の計画立案、日程表の作成、および進捗管理が含まれる。」
1つのシステム開発案件を成功させるためにはプロジェクトマネジメントが必要、1つのシステム開発案件では達成できないような、大きなゴールに到達するためにはプログラムマネジメントが必要、ということですね。
マスタデータマネジメントがなぜプログラムマネジメントの性質を持っているのか考えてみます。たとえば、マスタデータマネジメントでは次のような工程があります。
1)コード・マスタの現状調査
2)現状の課題と解決案策定
3)コード・マスタのあるべき姿の設計
4)コード・マスタの実現可能な到達点の設計
5)統一コード・統一マスタ管理システムの構築
6)各業務・各システムでの統一コード・統一マスタの利用
1)~5)は、企画・計画およびMDMシステムの構築です。6)はそのシステムを使って統一コード・統一マスタを各部門、各システムに使わせる普及活動です。かりに1)~5)に1年かかったとすると、6)は数年もしくは10年程度の期間が必要になります。6)の期間中、複数のシステム開発プロジェクトが発生し、各プロジェクトに統一コード・統一マスタを使わせるためのガバナンス活動が必須です。
実際のところ、すべての種類の統一コード・統一マスタがたった1年で揃ってしまうことは稀です。たとえば「商品コード、取引先コードは優先するが、社内組織やBOMは後回しにしょう」とか「A事業を先にして、B事業は後にしよう」など、優先順位をつけた上で、徐々に統一が進んでいきます。つまり、MDMシステムの構築も、コード・マスタの種類別に何度か必要になるというわけです。
このようにマスタデータマネジメントは複数のプロジェクトを長期間にわたってコントロールしなければ、成功しない性質をもっています。
マスタデータマネジメントに限らず、データマネジメントに取り組む人たちにとって、活動予算の確保は悩ましい課題となっています。予算申請・承認のプロセスと承認基準が、プログラムではなくプロジェクトを想定して作られているからです。ある会社では、「ROIを示せと言われても出せない、必要だからやるんだ」と強引に説得したようです。